ラグが直らなくて「ゲーム VPN」で検索すると、出てくる記事はほぼ全部が「VPNを使えば改善します」で終わります。書いているのがVPNを売っている側なので当然ではあるのですが、VPNを通せば通信は必ずどこかを経由します。経路は伸びる。これが出発点です。

伸びた経路のほうが速くなることは、あります。ただしそれは、元の経路がよほど非効率だったときだけです。順番としては、まず無料でできることを潰してから、残った症状がVPNの守備範囲かを見る。この記事はその切り分けだけを扱います。

VPNを買う前に通す順番
  1. お金のかからない対策 まず4つ潰す
  2. 自分の状況を判定 効くケースか効かないケースか
  3. 規約を確認 タイトルによっては違反になる
  4. 当てはまった人だけ導入 大半はここまで来ない

先に潰す、お金のかからない4つ

ラグの相談で実際に多いのは、この4つのどれかです。

  1. 無線をやめる: Wi-Fiは速度ではなく揺らぎ(ジッター)が問題になります。平均は出ているのに時々跳ねる、が対戦では致命傷です
  2. ルーターを再起動する: 数週間つけっぱなしのルーターは、セッション過多で不安定になっていることがあります。電源を抜いて30秒
  3. 裏で帯域を食っているものを止める: Windows Update、Steamのダウンロード、クラウド同期、家族の動画。ゲーム中だけでもSteamの自動更新を止めると変わります
  4. ゲーム内のサーバー地域を確認する: 自動選択で遠い地域に繋がっていることがあります。タイトル側の設定で近い地域を選ぶだけで直る場合があります

有線化は「ケーブルを買う」だけの投資で、効果が出る確率がいちばん高い対処です。長さは実測+1〜2mの余裕、規格はCAT6Aを選んでおけば当面買い直しになりません。細い「フラット型」は取り回しが良い一方で断線しやすいので、家具の下を通すなら標準形状のほうが無難です。

ここまでやってまだ症状が残るなら、次の表で「そもそもVPNの守備範囲か」を見ます。

状況別・VPNが効くか効かないか

状況VPNは効くか理由先に試すこと根拠
国内サーバーの対戦でラグい✕国内から国内へ最短で繋いでいる経路に、経由地を1つ足すだけになる有線化・ルーター再起動・裏のダウンロード停止経路が伸びる以上、遅延は原則増える
Wi-Fiだと時々跳ねる✕原因は無線区間。その先をどう通しても無線の揺らぎは消えない有線化。無理ならルーターとの距離・5GHz帯無線区間はVPNの経路外
夜だけ重い(PPPoE接続)ほぼ✕混雑しているのはプロバイダ側の網終端装置。VPNを通してもその区間は同じように通る接続方式をIPoE(v6プラス等)に変える。対応ルーターも必要混雑箇所が経路の手前にある
海外サーバー・海外の友人と遊ぶと重い△(試す価値あり)元の経路が遠回り・混雑している場合、別経路のほうが結果的に短くなることがあるゲーム内のサーバー地域変更、時間帯をずらす改善するかは経路次第。無料期間で実測して判断
学校・社宅・公衆Wi-Fiでゲームに繋がらない○ゲームの通信ポートが管理側で塞がれている場合、VPNなら通ることがあるスマホのテザリングで切り分け(繋がるなら回線側の制限)遅延ではなく「接続可否」の問題
P2P型タイトルでIPを晒したくない○相手から見えるのはVPNのIPになるフレンド限定ロビー、ボイスチャットをサーバー経由に対戦相手に自分のIPが渡る構造のタイトルのみ
地域限定サーバー・先行配信に入りたい△(規約リスク)技術的には可能でも、地域制限の回避を禁止しているタイトルがあるそのタイトルの利用規約・EULAを確認禁止の有無はタイトルごと
Remote Play・LAN対戦が繋がらない✕(むしろ有害)仮想LAN・VPNソフトがPC同士の検出を妨げることがあるVPN・Hamachi等を終了してから再試行Steam公式ヘルプが検出プロセスへの干渉を明記

8つのうち、はっきり ○ が付くのは2つ。条件つきの △ を足しても3つです。しかもその ○ 2つは、ラグの改善ではなく「繋がらない」「IPを隠したい」という別の目的で、ラグ対策として意味があるのは海外が絡む1行だけ——これがこの記事の結論です。

なぜ「遠回りなのに速くなる」ことがあるのか

インターネットの経路は、地図上の最短距離では決まりません。プロバイダ同士の接続点(ピアリング)をどこで通るかで決まるので、地理的には近いのに、遠回りしている経路が実際に存在します。海外サーバーに繋ぐときにこれが起きやすく、VPN事業者の回線を経由したほうが結果的に短くなる、ということが起こり得ます。

逆に言えば、国内サーバーへ国内から繋いでいる場合、短くする余地がほとんどありません。 すでに最短に近い経路を通っているところに経由地を足せば、遅くなるのが自然です。「VPNでPingが下がる」という話を読むときは、それがどこからどこへの通信の話なのかを必ず確認してください。

規約の話(短く、しかし重要)

VPN経由の接続そのものを禁止しているタイトルはあまり多くありませんが、地域制限の回避については話が別です。安い地域の価格で買う、未配信地域の先行サーバーに入る、といった使い方を明確に禁止しているタイトルがあります。

ここで「大丈夫です」と書いているサイトは信用しないでください。規約はタイトルごとに違い、変わります。 遊びたいタイトルの利用規約・EULAを自分で確認するのが唯一の正解です。アカウントを失う可能性のある話なので、他人の記事を根拠にしないでください。

効くケースに当てはまった人へ

上の表で ○ か △ に当たった人だけ、ここから先を読む意味があります。選ぶときに見るのは3点です。

  • 繋ぎたい先の国にサーバーがあるか: 海外サーバー狙いなら、その国のサーバーを持っているかがすべてです
  • 契約前に試せるか: 効くかどうかは経路次第で、使ってみるまで分かりません。 無料期間や返金期間のあるサービスを選び、実際にそのゲームで測ってから継続を決めます
  • 同時接続台数: PCとスマホ、家族分をまとめるなら台数制限を確認します

2社を並べているのは、比べる軸が価格ではないからです。VPNは効くかどうかが経路次第なので、同じ条件で試して、自分の環境で速いほうを残すのが唯一の決め方になります。見比べる順番はこうです。

  1. 繋ぎたい先の国にサーバーがあるか。ここで片方が脱落するなら、他の項目を見る必要はありません
  2. 日本語でのサポートと、解約の手続き。国内事業者はここが分かりやすい傾向です
  3. 無料期間・返金期間の長さ。測る時間が確保できるかという意味で、ここは実用的な差になります

契約したまま測らない、が一番もったいない使い方です。返金期間のあるうちに、遊ぶタイトルでVPNのオン・オフを切り替えて数値を比べてください。

なお、協力プレイ用に友人とゲーム環境を整えたいだけなら、VPNより先に見る場所があります。協力プレイ環境の作り方に、コントローラー・Remote Play・回線の切り分け手順をまとめてあります。同じPCで2人遊ぶなら、そもそもネットワークが絡まない画面分割という手もあります。

逆方向の用途: 海外から日本に繋ぐ場合

ここまでは「日本から海外サーバーへ」の話でしたが、逆方向——海外在住や出張中に、日本のサーバーや国内向けサービスへ繋ぐという用途は、上の表の3状況とは別枠です。この場合は「繋ぎたい先の国」が日本に固定されるので、選ぶ基準も変わります。日本のサーバーを多く持ち、日本向けサービスへの接続を主目的にしている事業者が候補になります。

よくある疑問

Q. VPNを入れたらPingが下がったという報告は嘘ですか? 嘘ではありませんが、条件付きです。海外サーバーへの経路が非効率だった人には起こります。国内サーバーの対戦で下がったという報告は、VPNではなく同時に行った別の変更(有線化・再起動など)が効いている可能性を先に疑ってください。

Q. 無料VPNではだめですか? ラグ対策の目的なら勧めません。無料のサービスは速度と同時接続に制限があることが多く、ゲームで求められる安定した低遅延とは相性が悪いからです。接続可否の回避目的であれば選択肢に入りますが、通信内容を扱うサービスなので、事業者の素性は確認してください。

Q. VPNは常時オンにしておくべきですか? いいえ。効くケースだけオンにしてください。国内サーバーの対戦でオンのままにすると、経路が伸びるぶん悪化するのが普通です。上の表で ○ か △ に当たった遊び方のときだけ切り替える運用が正解です。

Q. 家族が動画を見ると重くなります。VPNで直りますか? 直りません。家庭内の帯域の取り合いなので、対処はルーター側です。QoS(通信の優先度設定)に対応したルーターなら、ゲーム機やPCを優先に設定できます。人数が増えるほど回線の余裕は要るので、4人で遊べる協力ゲームを大人数で遊ぶ日は、家族の視聴時間とぶつけない段取りのほうが効きます。